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横浜地方裁判所 昭和29年(ワ)1377号 判決

原告 梅田寿

被告 オリオンタクシー株式会社

被告補助参加人 高橋忠夫

主文

被告会社が昭和二十九年十一月二十八日横須賀市追浜町二丁目五番地被告会社追浜営業所において開催した臨時株主総会で為した取締役中村浪司、同梅田寿、同菅野賢及び監査役中村義雄を解任する、取締役高橋忠夫、同高橋美子、同高橋信夫、同土屋哲旺、同田中兼男及び監査役井上義信を選任する旨の決議並びに同日同所において開催された取締役会で為した代表取締役高橋忠夫を選任する旨の決議は無効なることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求原因として、被告会社は昭和二十九年一月二十三日一般乗用旅客自動車運送事業等を目的として設立された株式会社で、資本金五百万円発行済株式総数一万株、一株の金額金五百円であり、原告は被告会社設立以来引続き現在に至るまで四百株の株主である。

被告会社は昭和二十九年十一月二十八日午後四時横須賀市追浜町二丁目五番地被告会社追浜営業所において臨時株主総会を開催し、

出席株主

高橋忠夫 三千株

高橋美子 三千株

高橋信夫 百株

田中兼男 六百株

土屋哲旺 四百株

井上義信 百株

欠席株主

原告   四百株

榎田敏彦 四百株

高橋守  二千株

にて、「取締役中村浪司、同原告及び同菅野賢並びに監査役中村義雄を解任し、新に取締役高橋忠夫、同高橋美子、同高橋信夫、同土屋哲旺及び同田中兼男並びに監査役井上義信を選任する」旨の決議を為したものとして、又同日午後四時三十分同所に於て取締役会を開催し、新に選任された取締役全員が出席し「高橋忠夫を代表取締役に選任する」旨の決議を為したものとして、同月二十九日その旨の各登記手続を為した。

右株主総会は昭和二十九年九月二十八日当時の代表取締役中村浪司の招集したものとされているが、同人は株主総会を招集したことはなく当時の取締役中村浪司、同原告及び同菅野賢を以て構成する取締役会に於てその招集を決議したこともなく、又右のような株主総会が開催された事実は全くない。

仮に右株主総会が右取締役会の決議に基き代表取締役中村浪司により招集され、該株主総会に於て右のような決議がなされたとしても、被告会社の株主は設立以来現在に至るまで

山岸敬明 二千株

中村浪司 二千八百株

中村義雄 二千株

高橋忠夫 二千株

原告   四百株

菅野賢  四百株

榎田敏彦 四百株

の七名で、前記株主総会に於て、その通知を受けて出席したのはその中高橋忠夫一名のみで他の六名は招集通知を受けず、株主総会に出席して決議権を行使する機会を与えられなかつた。しかも右六名の持株数は被告会社の発行済株式総数一万株の内八千株に達し、高橋忠夫の持株は二千株に過ぎないから右株主総会は適法に成立したものということはできない。従つて、右株主総会で為された決議は無効であり、右無効の決議に基いて改選された取締役により構成された前記取締役会の決議もまた無効であると述べ、

被告会社の本案前の主張に対し、被告会社が本件株主総会で選任されたと称する取締役及び監査役の任期が、その選任されたと称する日から取締役については二年、監査役については一年を経過し現在においては既に終了していることは認める。けれども、その後株主総会において新に取締役及び監査役の選任がない本件においては商法第二百五十八条及び第二百八十条により右取締役及び監査役は任期満了後もなお取締役又は監査役の権利義務を有するものとして、その権利を行使する恐れがあるから原告は本訴請求につきなお訴の利益を有する、又

被告会社の本案の主張に対し、被告会社主張の原始株主の株式が順次譲渡され前記株主総会当時の株主が被告会社主張の通りになつていたとの事実は否認する。仮に右の通り株式譲渡が為されたとしても、右株式譲渡は株券発行前のことであり且又未だその名義書換の手続が完了していないから被告会社に対抗できないと答え、

立証として、甲第一号証、第二号証の一、二、第三号証の一ないし九、第四号証の一ないし十、第五ないし第九号証、第十号証の一、二、第十一ないし第十三号証を提出し甲第三号証の一ないし九は訴外土屋哲旺が作成したものであり又同第十三号証は昭和二十九年八月二十日の臨時株主総会の議事録の写として作成されたものであると述べ、証人小林進、中村浪司(一、二回)、中村義雄及び田中兼男の各証言並びに原告本人尋問の結果を援用し、乙第一、第二号証、第三号証の一、二、第四ないし第六号証、第七号証の三、第八号証の一、二、第十号証の一、丙第二号証の成立を認める、乙第七号証の一、丙第三号証は不知、乙第十号証の二ないし八は各頁の上部の赤横線より上方に記載してある部分の成立を認める、けれどもその余の部分の成立はこれを否認する。その他の乙号各証及び丙号証の成立は何れも否認すると述べた。

被告会社訴訟代理人は、先ず、本件訴を却下するとの判決を求め、本案前の答弁として、原告は本訴において被告会社が昭和二十九年十一月二十八日被告会社追浜営業所で為した役員選任の臨時株主総会の決議及び右決議により選任された取締役会の無効確認を求めるのであるが、右株主総会において選任された取締役及び監査役は商法第二百五十六条及び第二百七十三条又は被告会社の定款第二十五条所定の期間(取締役については任期二年、監査役については任期一年)を経過したから、右株主総会の決議及び取締役会の決議の無効確認を求めるにつき訴の利益を欠き本件訴は却下されるべきであると述べ、

次に、原告の請求を棄却するとの判決を求め、本案の答弁として被告会社が原告主張の目的で設立され、その資本総額、発行済株式数が原告主張の通りであり、原告がその四百株の株主であること、被告会社が原告主張の通り臨時株主総会を開催し、その主張の株主出席の下に原告主張の決議をなし、同日新取締役会において原告主張の通り代表取締役の選任決議を為したものとして、取締役及び代表取締役の解任及び就任の登記手続を為したこと及び被告会社の原始株主が原告主張の通りであつたことはいずれも之を認める。

けれども、右臨時株主総会は当時の取締役会の決議に基き代表取締役中村浪司により招集され、現実に開催して決議を為し、次で、新任取締役会の決議が行われた。又株主中訴外山岸敬明は昭和二十九年五月二十一日その持株二千株全部を訴外高橋美子に譲渡し、同人は同月三十一日譲受株式全部を訴外高橋忠夫に譲渡し、訴外中村浪司は同年九月二十六日その持株二千八百株全部を訴外高橋忠夫に譲渡し、同人は同日内二千株を訴外高橋守に、内六百株を訴外田中兼男に、内二百株を訴外井上義信及び同高橋信夫に各百株宛譲渡し、訴外中村義雄は同年九月二十六日その持株二千株を、又訴外菅野賢は同日その持株四百株を何れも訴外高橋忠夫に譲渡し、同人は同日右中村から譲受けた二千株を訴外高橋美子に、右菅野から譲受けた四百株を訴外土屋哲夫に譲渡したから本件株主総会当時の株主は原始株主とは一部異り右株主総会は適法に成立したものであると述べ、

立証として、被告訴訟代理人は、乙第一、第二号証、第三号証の一、二、第四ないし第六号証、第七号証の一ないし三、第八及び第九号証の各一ないし十一、第十号証の一ないし十四、第十一号証の一ないし百、第十二号証の一ないし三を提出し、証人中村浪司(一、二回)の証言を援用し、甲第二号証の一、二、第三号証の一ないし九、第四号証の一ないし十、第九号証第十号証の一、二、第十一号証の成立を認める。第一号証の成立を否認する、その他の甲号各証は不知と述べ、

参加人訴訟代理人は、立証として、丙第一ないし第三号証を提出し、証人高橋美子の証言を援用した。

理由

先ず、被告の本案前の主張について判断すると、被告は本件株主総会の決議により選任された取締役及び監査役は、取締役については二年又監査役については一年の任期が経過した今日において、右決議の無効確認を求めることは訴の利益を欠くと主張するのであるけれども、原告の主張によれば、右決議により従来の取締役であつた中村浪司、同梅田寿、同菅野賢及び監査役中村義雄は解任され、新に取締役高橋忠夫、同高橋美子、同高橋信夫、同土屋哲旺、同田中兼男及び監査役井上義信が選任されたというのであり、商法第二百五十八条によれば任期の満了した取締役は新に選任された取締役の就職するまでの間なお取締役の権利義務を有し、右規定は同法第二百八十条により監査役にも準用せられるのである。従つて、仮に右株主総会の決議が無効であつたとすれば該決議により解任せられた旧取締役及び旧監査役等は解任せられることなく任期満了まで在任し、又仮に右決議が有効であるならば、右決議により旧取締役及び旧監査役は解任され新に選任された新取締役及び新監査役が一旦就任した後任期の満了により退任したこととなるのであり、その後更に取締役及び監査役が就職したことは被告において主張及び立証をしないのであるから、右決議が有効であるか、無効であるかにより前記商法の各規定の適用上現在取締役及び監査役の権利義務を有する者に相違を来し、この限度において右決議の無効確認を求めることはなお訴の利益を有するというべきで、被告の主張はこれを採用することはできない。

次に、本案について判断を為すと、被告会社が原告主張の目的で設立され、その資本総額、発行済株式数が原告主張の通りであり、原告がその四百株の株主であること、被告会社が原告主張の通り昭和二十九年十一月二十八日臨時株主総会を開催しその主張の株主出席の下に原告主張の決議を為し、且同日新取締役会において原告主張の通り代表取締役選任の決議を為したものとして、同月二十九日その旨の各登記手続を了したことは当事者間に争がない。

けれども、成立につき争がない甲第三号証の一ないし九及び証人中村義雄の証言によれば訴外土屋哲旺は当時被告会社代表取締役だつた訴外中村浪司の承認をえて訴件横須賀信用金庫において同金庫に保管してあつた被告会社の印形を用いて昭和二十九年十月二十八日附横須賀市西逸見町二丁目六十九番地の被告会社事務所において臨時株主総会を招集する旨の臨時株主総会開催通知書を作成したことを認めることができ、証人中村浪司の証言(二回)中右認定と異る部分は信用できないし、他には右認定を覆すに足る証拠はないけれども、右通知書には開催日時の記載がなく又開催場所も右認定の通りで、横須賀市追浜町二丁目五番地被告会社追浜営業所となつておらないのであるから、本件株主総会の招集通知書としては適法のものと認めることはできないのであり、成立につき争がない甲第二号証の一、二、第九号証及び乙第五、第六号証並びに証人中村浪司の証言(一回)及び原告本人尋問の結果によれば、訴外中村浪司は昭和二十九年九月十三日附で役員選任の件に関し、同月二十五日午前十時前記被告会社事務所において臨時株主総会を招集することとしていたが訴外高橋忠夫の申請に基き同月二十四日附横浜地方裁判所横須賀支部の仮処分決定により右株主総会の招集を停止されておつたこと、訴外高橋忠夫は同年十月二十二日附書面を以て訴外中村浪司に対し取締役全員の改選その他二件に関し、株主総会の招集を請求したので、中村浪司は同月二十八日横須賀信用金庫二階において臨時取締役会を開催したが、前記仮処分決定が為された以上このままの状態で自ら臨時株主総会を招集することについては疑義があるという理由で、右株主総会招集の請求に対する決定を後日に延期し、訴外高橋忠夫から届けられていた臨時株主総会招集通知書(甲第三号証の一ないし九)には代表取締役の印を押捺せず、結局被告主張の株主総会につき適法なる招集通知はなされなかつたことを認めることができる。而して、乙第十二号証の一ないし三についてはその真正に成立したことを認めるに足る証拠はないし、又、証人田中兼男及び同高橋美子の各証言中には訴外田中兼男及び同高橋美子は右株主総会につき招集通知書を受領したとの部分があるけれども信用できない。他には右認定を動かすに足る証拠はない。

又、証人田中兼男及び同高橋美子の各証言中には昭和二十九年十一月二十八日被告主張の株主総会は当初予定された会場である被告会社追浜営業所を変更し鎌倉市所在訴外高橋忠夫方において開催されたとの部分がある。けれども証人中村浪司の証言(一回)及び原告本人尋問の結果によれば、当時代表取締役だつた訴外中村浪司及び被告会社四百株の株主だつた原告(この点については当事者間に争がない)等はいずれも、右株主総会に出席せず、その開催の事実を知らなかつたことを認めうるから、かような事実に照し、前記証人田中兼男及び同高橋美子の証言は信用できないし、他にはかような会合の開催されたことを認めるに足る証拠はない。したがつて、被告主張の臨時株主総会は結局において開催されなかつたものと認めるほかはない。

以上の通りであるから、昭和二十九年十一月二十八日の被告会社臨時株主総会の決議は行われなかつたと認めるのが相当であり、従つて同日の新取締役会決議もまたその余の判断を為すまでもなく無効というほかなく、之等の無効の確認を求める原告の本訴請求は理由があるから之を認容すべきである。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 松尾巌)

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